ITライター上倉賢のAll About

IT系ライターによる日常

YouTubeの配分率はSpotifyやApple Musicと比べて安いのか問題

YouTubeで日本のミュージックビデオが海外で視聴できないことに関する記事から、何が悪いのかを解説しました。

allaboutkamikura.hateblo.jp

ここで紹介したITmediaの記事にはTechCrunchからの情報として次のことが書かれています。

2015年の米TechCrunchの記事によると、「YouTube Red」の規約に署名した場合YouTubeパートナーに支払われる収益の割合は55%。これは当時の定額制ストリーミング配信サービス「Spotify」の70%、「Apple Music」の71.5%に比べてかなり低い数字になる。

そもそもこの収益率は、比較対象となるベースが異なります。
収益が支払われる割合が高いか低いかを、このデータだけで比較することは間違っていると言えます。

YouTubeは動画配信サービス、SpotifyApple Musicは音楽配信サービス

まず大きな違いは、YouTubeは動画配信サービスで、SpotifyApple Musicは音楽配信サービスであるという点です。

YouTubeは動画と音声をストリーミング配信する必要があります。SpotifyApple Musichは音楽しか配信しません。

必要なリソースは何倍も異なります。音楽が1曲5MBなら、動画は解像度にもよりますが少なくとも数倍、場合によっては10倍以上のデータ量となり、それに伴うコストも数倍になります。

つまり、動画配信にかかるコストは、音楽だけに比べてかなり高いと言うことです。

YouTubeは基本広告、SpotifyApple Musicは有料会員

YouTubeSpotifyApple Musicの収入源もそれぞれ異なります。

YouTubeは広告配信による収益がほとんどで、その中の一部に有料会員YouTube Redがあります。記事の支払い率が正しいとして、それぞれの総収入の55%が動画配信者に支払われていると予想されます。

SpotifyYouTubeと同様に無料による広告収入と、有料会員からの収入があります。Apple Musicは有料会員からの収入のみとなります。

YouTubeの広告は動画の広告など、商品により異なりますが、動画の広告が基本です。Spotifyの広告は音声による広告です。

それぞれ異なるサービスを比較するのは間違い

例えば、AndroidiPhoneのアプリ配信において、GoogleAppleは30%を販売手数料としています。それぞれ同等のサービスを提供しているので、30%の手数料は同一と言えます。

例えば、任天堂のゲーム機向けにゲームを販売する場合、カートリッジやディスクなどを任天堂に製造してもらう必要があります。おそらく任天堂の手数料は販売価格の30%ではないでしょう。

動画配信サービスでミュージックビデオの再生が基本のYouTubeと、音楽配信SpotifyApple Musicの比較は正しくはないです。

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YouTubeで日本のミュージックビデオが海外で視聴できない原因は誰にあるのか

nlab.itmedia.co.jp

ITmediaに日本のミュージックビデオの多くが海外で視聴できない状態にあり、その原因がYouTube Redの契約に起因する物だとした記事があります。

流れとしては

  • YouTubeが定額料金を払えば広告を見ないでもいいYouTube Redというサービスをアメリカ等で開始した。
  • このYouTube Redが始まったタイミングで日本のミュージックビデオがアメリカなどで視聴できなくなった。
  • YouTubeによる収益は通常よりも低く(記事によれば55%)、他のストリーミングサービスと比較して2割ほど低い。
  • この低い収入を日本のレーベルが受け入れていない。
  • これによりYouTube Redの視聴地域では視聴制限がかかっている。

これによって、日本のミュージックビデオが海外の一部国で視聴できない状態になっています。

これは誰が悪いのでしょうか。

YouTubeは基本広告なしでだれもが無料で使えるサービス

まず、YouTubeは無料で動画を視聴できるサービスです。誰もがオリジナルの動画をアップロード可能で、世界中の人に見てもらえるサービスです。

そのオリジナルの動画をアップロードする人は、広告を配信することが可能となっています。広告設定をするかどうかは動画配信者が広告収入を得たいかどうかで決まります。

つまり、広告収入が必要なければ、広告なしで動画を全世界に配信できるということです。この場合、YouTubeが勝手に広告を設定することはないので、広告なしで動画は視聴できます。

動画投稿者が収入を得たい場合

一方で動画投稿者は投稿した動画をある程度収益化したいと考えます。

そこで、YouTubeは広告配信ができるサービスを提供しています。これによって年収億単位で稼ぐ人も出てくるなど、いわゆるYouTuberが多数登場しました。

一般の動画サービスとして定着したYouTubeに、ミュージシャンがミュージックビデオを配信することが増えてきました。

例えばVEVOYouTubeと共同してミュージックビデオを全世界に配信するなど、曲によっては数十億回の再生回数になっている物もあります。

この再生回数の多い動画に広告を付けることで、アーティスト側は収入を得ることができるようになっています。

サブスクリプションサービスYouTube Redの導入

YouTubeで様々な動画を視聴していると、新しい動画を視聴する度に広告が表示され、面倒に思う方も出てきます。

そんなユーザーの中には、お金を払って広告を表示しない用にして欲しいと考える人もいます。

そこで月額1,000円程度の料金を支払うと、広告無し、スマートフォンでのバックグラウンド再生、ダウンロード視聴などができるYouTube Redを2015年10月にアメリカで開始しました。

通常の広告とYouTube Redによる収益の違い

YouTube Red自体サービス開始から徐々に利用地域を広げていますが、まだ一部の国でしかサービスされていませんし、ユーザーはそれほど多いとは言えません。

それでも、動画投稿者にはYouTube Redによる収益がどのくらいあるのかはわかります。

YouTube Redが使用出来る地域での視聴割合が5%以上10%以下の、あるYouTubeチャンネルの収益例です。

広告付き再生12万回で96ドルの収益、その期間、YouTube Redは159回の再生があり、0.10ドル程度の収益があったという結果です。

この例ではYouTube Redの再生回数が極端に少ないので正確とは言いがたいですが、収益割合はほぼ同じとなります。

少なくともこの結果だけ見ると、通常の広告付き動画も、広告がないYouTube Redの収益もほとんど変わっていないわけです。

ただし、広告は再生される国、広告の商品内容などによって変わるので、これは全体の平均ではありません。少なくとも、YouTube Redと契約することによって広告収益が大幅に下がると言うことはない事が分かります。

YouTubeで視聴制限をかけているのは誰か

日本のミュージックビデオが海外で視聴できないという話は、YouTube Redを開始した2015年当初から海外から出ていました。

YouTube Redによる規約改定に合意していないために、YouTube Redの利用可能地域での視聴ができなくなった事が原因と考えられます。

YouTubeとしては、新しいサービスを開始するので、それに合わせた規約に合意して欲しいと思っている。日本の音楽レーベルは、新しいサービスの導入判断が一般的に遅く、YouTube Redに関しても日本でサービスされていないことからこれを受け入れていない。

という状況と思われます。

これはどちらが悪いのでしょうか。

ミュージックビデオの配信目的は何か

ミュージックビデオはそもそも何のために制作しているのでしょうか。

当初は、音楽(レコード)を売るためにテレビで流す宣伝の1つだったようですが、時代と共にその目的も変化しています。

今ではミュージックビデオ自体が作品になっており、これありきの音楽という物も存在します。

音楽のミュージック自体は、レコード、CDからダウンロード販売、ストリーミングへとサービスの形態を変えています。ミュージックビデオもテレビ、VHS、DVDから広告付きのネットでの視聴、有料配信など様々な物が登場しています。

その中で今回の話題となっているYouTubeでの広告付きの動画配信サービスの利用、YouTube Redのような定額視聴料による収益が得られる配信も行われています。

当初の宣伝だけが目的なら、広告をつけなくても、定額利用料であったとしても、全世界で配信を許可するようにするだけで問題は解決します。

YouTubeを使わなくても他のサービスを利用することもできます。

しかし、ミュージックビデオから収益を得たいと考えた場合は、収益を最大化したいと考えるのが普通でしょう。

新しい契約には合意せず、収益の状況の様子を見たり、自社に有利な条件を引き出すというような選択肢も可能です。

Google傘下のYouTubeは規約に合意しなければ使わなくてもよい」というのがYouTubeGoogleの基本姿勢です。これに異議を唱えたい方もいますが、圧倒的な利便性とそれに伴うデメリットを天秤にかけ、受け入れている方がほとんどでしょう。

現状でレーベル側は、動画再生から得られる利益を最大化したり、定額配信に曲を提供することでのデメリットを考えているのでしょう。そのため、視聴数が圧倒的に少ない海外での視聴を止めても問題ないと判断している状況です。

その状態を1年以上続けて、海外のファンを拒否しているレーベル側の問題も深いと思われます。

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クロネコヤマトが値上げするのはいいがサービス内容もかえたらどうか

クロネコヤマトが配送料を値上げする検討中とのことです。

日本だと配達場所や荷物のサイズによりますが、500円くらいから2000円くらいで翌日や翌々日には荷物が届きます。

配達は本人に手渡しが原則です。

はっきり言うとこれは過剰サービスですね。この過剰サービスを止めて、サービス内容を下げるだけで、負担は下がると思うのですが。

例えば、アメリカでは配送サービスにもよりますが、家の前に置いていくだけの物から、直接手渡しまで様々な配達が選べます。

配達日数も金額が上がれば上がるほど高くなりますし、日本のように基本的に一律同一サービスだけではありません。

allaboutkamikura.hateblo.jp

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現行のサービスを続ける事が、労務環境の点で問題なら値上げすればいいですし、負担を減らすなら、日本なりの低コストサービスを提供すればいいですし。

すべてのユーザーが、何でもかんでも翌日の手渡しを望んでいるわけではないということも踏まえてサービスを改訂すればいいんじゃないかと思います。

小倉昌男 経営学

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データカンパニーとして成長するインテル

インテルと言えばパソコンのCPUで圧倒的なシェアを誇る会社ですが、スマートフォンなどのCPUではQualcommを初めとしたARM系全く歯が立たないのが現状です。

しかし、スマートフォンを使うにはクラウドにあるデータセンターの存在が欠かせませんが、このデータセンター向けのCPUでは圧倒的なシェアを誇ってもいます。

さらにIoTというこれからの物もありますが、一見世間的には分が悪そうにも見えるかもしれません。
インテルという会社がどこへ向かっているのかを、2017年3月2日に都内で行われたプレスセミナーから見てみましょう。

データカンパニーになるインテル

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インテルの江田社長はデータカンパニーに向けた成長戦略を語りました。

これは、各種デバイスの高度化によって利用するデータ量は増大するため、これを扱えるようになるためのCPUやネットワーク含めた進化が必要になります。
そのデータを扱える環境を提供できるのがインテルだと説明します。

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2020年までに平均的な人で1.5GB、自動運転車は4TB、クラウドベースのビデオ配信は750PBのデータを1日に扱うことになります。
これを扱えるようになるには、ネットワークはもちろん、クライアントから、ゲートウェイ、サーバーまですべての投資が必要になります。これをすべてEnd to Endで提供できるのがインテルだとしています。

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その中での重点するのは次の3領域と説明します。

  • クラウド、AI、ネットワーク
  • メモリ、FPGA、5G
  • データリッチなモノと機器

それぞれの領域で各業界に特化したソリューションを提供するとしました。

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特に重点に置いているのがAIで、高度なアーキテクチャーが必要な分野にインテルXeon Phiなどのプロセッサーを提供、関連企業のM&Aにより足らなかった部分の拡充。

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自動運転なら「インテルGoプラットフォーム」で、自動運転向け開発プラットフォーム、5Gネットワーク、データセンターを提供。

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さらに、現在課題のある業種向けのソリューションも提供、例えば小売業では。

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顧客体験、店員、在庫など実店舗の課題を解決するために、「インテル レスポンシブ・リテール・プラットフォーム(インテルRRP)」を提供。

現状で1兆ドルの損失があると言われている在庫など、リテールでの課題を解決する。

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そのための次世代型実店舗の実現のため、RFIDでの在庫、人の動きがリアルタイムに把握できるシステムのためのセンサー、ゲートウェイ、データセンターを提供。

さらに、オンデマンド生産のような生産面での改革もしていくとしました。

また、データ量が多くなることに対応した5Gへの投資もしていきます。

プラットフォームを提供し各業界の課題を支える会社へ

インテル半導体の製造を基本とした会社で、これまではパソコンやサーバー向けのCPUの提供で成長しました。

今後もパソコンやサーバーは使われますが、まだまだ活用が進んでいない業界が多数あります。自動運転、AIといった今後の活用が期待される業界もあります。

それらの業界が利用する事になるデータはもちろん、演算性能やネットワークを利用するための半導体で、各業界を後ろから支える会社としてインテルは成長していく戦略のようです。

その成長には、CPUとチップセットWi-Fiモジュールというプラットフォームを提供し、パソコンの進化を支えてきた経験を生かしていくようです。

今回紹介された、各種プラットフォームはまだ一例とのことで、今後多くの業界でインテルが関わっていく事になるようです。

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