ITmediaに日本のミュージックビデオの多くが海外で視聴できない状態にあり、その原因がYouTube Redの契約に起因する物だとした記事があります。
流れとしては
- YouTubeが定額料金を払えば広告を見ないでもいいYouTube Redというサービスをアメリカ等で開始した。
- このYouTube Redが始まったタイミングで日本のミュージックビデオがアメリカなどで視聴できなくなった。
- YouTubeによる収益は通常よりも低く(記事によれば55%)、他のストリーミングサービスと比較して2割ほど低い。
- この低い収入を日本のレーベルが受け入れていない。
- これによりYouTube Redの視聴地域では視聴制限がかかっている。
これによって、日本のミュージックビデオが海外の一部国で視聴できない状態になっています。
これは誰が悪いのでしょうか。
YouTubeは基本広告なしでだれもが無料で使えるサービス
まず、YouTubeは無料で動画を視聴できるサービスです。誰もがオリジナルの動画をアップロード可能で、世界中の人に見てもらえるサービスです。
そのオリジナルの動画をアップロードする人は、広告を配信することが可能となっています。広告設定をするかどうかは動画配信者が広告収入を得たいかどうかで決まります。
つまり、広告収入が必要なければ、広告なしで動画を全世界に配信できるということです。この場合、YouTubeが勝手に広告を設定することはないので、広告なしで動画は視聴できます。
動画投稿者が収入を得たい場合
一方で動画投稿者は投稿した動画をある程度収益化したいと考えます。
そこで、YouTubeは広告配信ができるサービスを提供しています。これによって年収億単位で稼ぐ人も出てくるなど、いわゆるYouTuberが多数登場しました。
一般の動画サービスとして定着したYouTubeに、ミュージシャンがミュージックビデオを配信することが増えてきました。
例えばVEVOはYouTubeと共同してミュージックビデオを全世界に配信するなど、曲によっては数十億回の再生回数になっている物もあります。
この再生回数の多い動画に広告を付けることで、アーティスト側は収入を得ることができるようになっています。
サブスクリプションサービスYouTube Redの導入
YouTubeで様々な動画を視聴していると、新しい動画を視聴する度に広告が表示され、面倒に思う方も出てきます。
そんなユーザーの中には、お金を払って広告を表示しない用にして欲しいと考える人もいます。
そこで月額1,000円程度の料金を支払うと、広告無し、スマートフォンでのバックグラウンド再生、ダウンロード視聴などができるYouTube Redを2015年10月にアメリカで開始しました。
通常の広告とYouTube Redによる収益の違い
YouTube Red自体サービス開始から徐々に利用地域を広げていますが、まだ一部の国でしかサービスされていませんし、ユーザーはそれほど多いとは言えません。
それでも、動画投稿者にはYouTube Redによる収益がどのくらいあるのかはわかります。
YouTube Redが使用出来る地域での視聴割合が5%以上10%以下の、あるYouTubeチャンネルの収益例です。
広告付き再生12万回で96ドルの収益、その期間、YouTube Redは159回の再生があり、0.10ドル程度の収益があったという結果です。
この例ではYouTube Redの再生回数が極端に少ないので正確とは言いがたいですが、収益割合はほぼ同じとなります。
少なくともこの結果だけ見ると、通常の広告付き動画も、広告がないYouTube Redの収益もほとんど変わっていないわけです。
ただし、広告は再生される国、広告の商品内容などによって変わるので、これは全体の平均ではありません。少なくとも、YouTube Redと契約することによって広告収益が大幅に下がると言うことはない事が分かります。
YouTubeで視聴制限をかけているのは誰か
日本のミュージックビデオが海外で視聴できないという話は、YouTube Redを開始した2015年当初から海外から出ていました。
YouTube Redによる規約改定に合意していないために、YouTube Redの利用可能地域での視聴ができなくなった事が原因と考えられます。
YouTubeとしては、新しいサービスを開始するので、それに合わせた規約に合意して欲しいと思っている。日本の音楽レーベルは、新しいサービスの導入判断が一般的に遅く、YouTube Redに関しても日本でサービスされていないことからこれを受け入れていない。
という状況と思われます。
これはどちらが悪いのでしょうか。
ミュージックビデオの配信目的は何か
ミュージックビデオはそもそも何のために制作しているのでしょうか。
当初は、音楽(レコード)を売るためにテレビで流す宣伝の1つだったようですが、時代と共にその目的も変化しています。
今ではミュージックビデオ自体が作品になっており、これありきの音楽という物も存在します。
音楽のミュージック自体は、レコード、CDからダウンロード販売、ストリーミングへとサービスの形態を変えています。ミュージックビデオもテレビ、VHS、DVDから広告付きのネットでの視聴、有料配信など様々な物が登場しています。
その中で今回の話題となっているYouTubeでの広告付きの動画配信サービスの利用、YouTube Redのような定額視聴料による収益が得られる配信も行われています。
当初の宣伝だけが目的なら、広告をつけなくても、定額利用料であったとしても、全世界で配信を許可するようにするだけで問題は解決します。
YouTubeを使わなくても他のサービスを利用することもできます。
しかし、ミュージックビデオから収益を得たいと考えた場合は、収益を最大化したいと考えるのが普通でしょう。
新しい契約には合意せず、収益の状況の様子を見たり、自社に有利な条件を引き出すというような選択肢も可能です。
「Google傘下のYouTubeは規約に合意しなければ使わなくてもよい」というのがYouTubeやGoogleの基本姿勢です。これに異議を唱えたい方もいますが、圧倒的な利便性とそれに伴うデメリットを天秤にかけ、受け入れている方がほとんどでしょう。
現状でレーベル側は、動画再生から得られる利益を最大化したり、定額配信に曲を提供することでのデメリットを考えているのでしょう。そのため、視聴数が圧倒的に少ない海外での視聴を止めても問題ないと判断している状況です。
その状態を1年以上続けて、海外のファンを拒否しているレーベル側の問題も深いと思われます。
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