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AI対応のNPU搭載PCをすぐ買うべきか問題2024

インテルのAI対応の最新プロセッサの「Core Ultra」が2023年12月に発表されました。
従来のCore iブランドから名称も変わっていますが、機能面でもインテルのプロセッサとして40年で最大の革新製品と表現しています。

インテルが言う革新の一つが、NPUというAIの推論に活用出来る新しい演算機能が搭載された点です。

インテルはこのCore Ultra搭載パソコンをAI対応PCとしてアピールしていくようです。

そもそも何がAI対応のPCなのか

Intel Core Ultra

AIの推論(Inferance)とは、AIのディープラーニングで学習(Training)した結果を元に、分析するような事です。

例えば、花の名前を調べたいときに、カメラで撮影して、ネットの何らかのサービスを使って実際の画像から花の名前を調べます。
各サービスは花の名前を、大量の花の画像から、色や形の特徴を元に事前に分析しています。AIのディープラーニングで言う学習です。その学習したデータから、カメラで撮影した花の名前を割り出すのが推論です。

この場合は数十万枚やそれ以上の大量の画像を事前に学習しますが、精度の高い大規模な演算が必要です。これは一般のパソコンでは厳しく、一般的にクラウド上のデータセンターで時間をかけて計算が行われます。
その学習したデータを使って、花の名前を調べるのが推論です。推論は学習に比べると大規模な計算は必要とせず、精度もそこまで必要ではありません。

AIの分野は様々で、花の名前を調べるようなこと以外にも、画像生成、文章作成のような2023年に急速に普及した生成AI(Generative AI)の用途もあります。

従来はAI機能自体がパソコンではあまり使われていなかったため、パソコン自体にはその機能はありませんでした。NVIDIAビデオカードGeForce RTXシリーズなどを使い、AI機能を使うことは可能でしたが、高価なゲーミングPCやワークステーションが必要でした。

この推論で使う演算では、CPUでも可能ですが、一般的にNPUという専用の演算装置を使います。NPUはNural Comuting Unitの略で、推論でよく使われる、行列の演算などを一度に大量に出来る事が特徴です。
インテルのパソコン向けプロセッサとしては、Core Ultraが初めてNPU機能を搭載しました。プロセッサ内に搭載したため、高価なゲーミングPCは必要とせず、薄型軽量パソコンでも推論が可能になりました。

インテルは今回発表したCore Ultra 7 165Hの、CPU、GPU、NPUのすべてを使って演算した場合、1秒間に35兆回の演算(35TOPS)が出来るとしています。

NPUの搭載は、一般のパソコン向けとしては、2023年にリリースされたAMDRyzen 7040シリーズで先行して搭載されました。スマートフォンでは画像処理用として、2017年から搭載されています。
インテルのCore Ultra搭載機種は2023年末から販売が開始されますが、2024年には他社含めて多くのNPUを搭載するAI対応PCが登場する事が予想されます。

そもそもNPUは何に活用されるのか

NPU搭載PCのローカルで動作するGen AIのSuperpower

 

真っ先にNPUに対応した機能としては、テレビ会議用の背景ぼかし機能などがあります。
従来はCPUの機能で演算が行われていましたが、NPUを使う事で、CPUの利用が減り、CPUを他の用途に使用したり、低消費電力で動作できるようになります。

2023年に急速に普及したAI関連ですが、AI関連の様々なサービスの登場が今後も予想されています。
多くのAI関連サービスはクラウド上で行われますが、データをクラウド上に送らなければサービスを利用出来ませんし、インターネット接続も必須です。

パソコン自体でAI機能が動作すれば、データをどこにも送らずに手元で処理可能、演算自体にネットワーク接続も必要としません。

AI関連機能で代表的なサービスがMicrosoft Copilotです。
Windows自体の操作、アプリの操作などでAI機能が利用出来ますが、NPUを搭載してパソコン内でAI機能が使えれば、インターネットに接続していない状態でもある程度のことが可能になるでしょう。

画像生成などの用途では従来はパソコンではほとんど不可能でしたが、NPUを搭載する薄型軽量のインテルのCore Ultra 155Hでも設定しだいですが、10秒程度で画像の生成が可能になっています。

Superpowerというパソコン上で動作するAIアシスタントもあり、自然言語でパソコン内のデータを元に、数秒以内に自然な文章で回答するサービスも2024年に提供されるようです。

他にも、Adobeなどの画像処理ソフトなどでもNPUは使われていますし、パソコンでの搭載が本格化すれば、ChatGPTがそうだったように、様々なソフトやサービスが登場して、急速にAIの活用の幅が広がる事が期待されています。

NPUをパソコンに搭載する意味はあるのか

現時点で、ほとんどのAI関連サービスはクラウド上で行われています。多くの方は、クラウド上での使用で困っていないと思います。

前述したように大量のデータを学習するような用途では、クラウドで行うのが現実的ですが、NPUがパソコンに搭載されれば、学習はともかく、推論はクラウドを使わずにパソコン内で可能になります。

現時点でも、テレビ会議の画像処理などでNPUが活用出来るため、NPUが搭載されていれば、CPUの利用量を減らして、低消費電力でテレビ会議が可能になります。

さらに、パソコン内でNPUを使った推論が可能になるメリットとしてよく言われているのが、データをクラウドに送らないで良いという点があります。
社内のセキュアなデータなども、セキュリティの不安無くAIの活用が可能になりますし、ネットワークに接続していないオフライン状態でもAIが利用出来るようになります。

また、クラウドでの処理はクラウドサーバー側の処理費用がかかっています。
ChatGPTなどは一部有料でサービスが行われているように、AI利用のすべてが無料で使えるわけではありません。

NPUがパソコンに搭載されていれば、パソコン内部での演算が出来るので、クラウドの費用はかかりません。AIサービス側の対応によりますが、クラウドで有料で行うことが、すべてパソコン内部で利用出来ればクラウドサービス費用が節約できます。

AI対応NPU搭載PCは高くはない

Intel Core Ultra搭載PC

従来のパソコンでAI機能を使うには、前述したようにゲーミングPCが必要でした。
30万円近いゲーミングPCでAI関連機能は使えましたが、一般的なサービスが使えていたわけでは無く、どちらかというとAI関連の開発者向けの物でした。

Core UltraなどのNPU搭載パソコンは、Core Ultra発表当初から15万円くらいから販売されています。

最も廉価なDELLのInspiron 13は、Core Ultra 5 125H搭載、メモリ16GB、512GBストレージモデルで14.7万円からとなっています。(12月18日現在)

メモリ、ストレージが同じ一世代前の第13世代インテルCore搭載モデルは12.7万円で、その差は2万円です。

この価格差は、新モデルと旧モデルの違いのような物で、機能面でのプレミアム価格ではありません。NPUを搭載している最新プロセッサでも、従来同様の新モデルの価格です。

従来と変わらない価格のパソコンで、日々進化していくAI関連サービスを自分の手元で動作できるなら、従来よりも価値は高いのかも知れません。

問題はNPUを活用するAI関連サービスがどれだけ充実するか

今後インテルのCore Ultraを搭載するモデル、他社のNPUを搭載するモデルは順次発売されるので、今慌てて買い替えるような必要は無いですが、近いうちに購入する予定があるなら、NPU搭載モデルを選んだ方がいいでしょう。

問題は、本当にAI関連機能はこれから充実するのかという点です。

少なくとも、いくつかのサービス、ソフトは登場しているので、AI関連機能自体の活用は可能です。

それらが本当に使えるか、どう活用するかはもう少し時間が経たないとわからないかも知れません。

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Intel Core Ultraを正式に発表 | NotebookPC.jp