ポータブルゲーミングPCという、小型軽量でゲームが楽しめるPCというジャンルがあります。
小型の画面の左右にコントローラーを配置して、PCゲームをゲーム専用機のように遊べる物で、ほとんどはOSにWindowsを採用しているので、ゲーム以外にも普通のオフィスソフトその他の操作も可能です。
各社からこのカテゴリの製品が出ていますが、単純に気軽にゲームを楽しめる事を中心に考えた製品としてみると2023年春に登場したROG Allyはかなり完成度が高い製品でした。
AMDとASUS
ROG Allyシリーズに搭載しているSoC(CPUやGPUのこと)はAMDのRyzen Z1シリーズで、AMD Zen 4、AMD RDNA 3 グラフィックを採用し、ポータブルゲーミングPCながらかなり高性能のSoCで、なぜかいまだに他社からの採用機がほぼありません。他の搭載搭載例はLenovo Legion Go。
この、ASUSがAMDの最新プロセッサを即採用できている理由は不明ですが、2024年に5月発表されたCopilot+ PCに対応するAMD Ryzen AI 300シリーズもZenbookやProArtなどの各モデルで採用されており、ASUSとAMDの関係がかなり良好なことがわかります。
ROG Allyの課題点
当初から完成度が高かったROG Allyですが、小型筐体にするためか、いくつかの不満点もありました。
ストレージモジュールがM.2 2230という小型の物、バッテリー容量も少ない、ASUSの独自規格ROG XG Mobileはあるが、汎用のUSB端子が1つだけなど。
小型だからしょうがない、次の機種に期待しようと思っていた方も多かったと思います。
その次の機種はAMDが出すかわからないRyzen Zシリーズの、次のSoC採用機種などではと思っていた方も多いでしょう。
1年後に出てきた進化モデルROG Ally X
そんなROG Allyの進化モデル ROG Ally X (2024) RC72LA が、初代モデルの1年後に登場しました。
1年後に改良モデルが出てきたことも驚きですが、それよりもその改良が内部のかなりの部分に及んでいる点が更なる驚きでした。
通常、このような改良は1世代前から少しだけ仕様が変わる程度の物が大きいですが、内部構造含めてすべてが新しくなったような改良です。
SoC自体はAMDのRyzen Z1 Extremeで変わっていませんが、内部構造、課題としてあった部分がかなり改良されています。
大きな変更点は以下の4点です。
メモリが24GBに強化
改良のポイントはいくつかありますが、メモリが16GBから24GBになったのは、この手のゲーミングPCでは大幅なパフォーマンス強化につながる改良点です。
一般的なゲーミングPCのメモリ量は16GB程度からが基準となっていると思いますが、これにくわえて、ビデオカードに搭載しているビデオメモリ8GBなどがあります。
AMDのRyzen Z1シリーズのビデオメモリはメインメモリと共有するため、メインメモリが16GBだと、例えばここからビデオメモリを4GB使うと、メインメモリの実質的な使用量が12GBになってしまいます。
つまり、同じ16GBで、同じCPU、グラフィック性能のゲーミングPCと比較すると実質的なメモリ量が少ないので、全体的なパフォーマンスは落ちてしまうということです。
今回のモデルはメモリ量が24GBになり、さらにそのメモリもLPDDR5-6400からLPDDR5X-7500へとメモリ自体が高速化され、容量と速度面での大幅な改良が行われました。
前述した例ではメインメモリが24GBあれば、ビデオメモリを8GBつかっても、メインメモリは16GBあるという状態になります。
ストレージが1TBに倍増
旧モデルのストレージは512GBでした。
最近のPCゲームは大量にストレージを使う物が多く、1つのゲームで100GB使うような事もよくあります。システムで100GB使っていた場合、100GBの容量のゲームは4つしか入らないことになり、全く余裕がありません。
このようなポータブル製品の場合、内部のストレージには小型のストレージモジュールを採用するのが通常で、旧モデルもM.2 2230という長さ30mmのストレージモジュールを採用していました。
この短いモジュール用のストレージ自体バリエーションが少なく、大容量にした場合は高価になりすぎるなどいくつかの問題があります。
今回の最新モデルではストレージに使うモジュールがM.2 2280になりました。つまり、一般的なパソコンで使われているのと同じ80mmの長さのモジュールになった事で、より低コストに大容量化が出来るということです。
例えば、このサイズだと4TBなどの選択肢も現実的ですが、この製品自体はコスト的にも無難な1TBのモジュールが採用されています。
注目なのが、ASUSはなぜか保証が外れても、自分でストレージモジュールを交換して大容量化したいユーザー向けの機能を他モデルでも展開している点です。
ストレージ用の端子が2つあるとか、分解が比較的簡単にできるような機能を最新の各モデルでアピールしています。このモデルでもストレージを自己責任でより大容量に出来る事を公表しており、より使い込みたいようなユーザーに刺さる製品が増えています。
バッテリー容量が倍増
従来モデルは40Whのバッテリーでしたが、今回のモデルでは80Whのバッテリーとなっています。
単純にバッテリー容量が倍増したことで、駆動時間が約2倍に増える事になります。それでもPCゲームはどうしても消費電力が高いため、一般的なゲーミングノートPCでもバッテリー駆動時間は課題です。
従来モデルでは設定やゲームなどにもよりますが、AAAなどの大作ゲームの場合は、おおむね2時間程度バッテリー駆動で遊べるくらいの駆動時間でした。もちろん、パフォーマンスをそれほど消費しないゲームならもっと伸びますが、正直長いとは言えない駆動時間です。
今回のモデルではバッテリー容量が倍増したことで、これが3時間台になるような形になります。連続して2時間以上、本体を手に持って操作するプラットフォームでゲームを遊ぶと、かなり疲労感があるでしょうから、このくらいの駆動時間があればとりあえずの及第点が与えられるのではと思います。
汎用USB端子が倍増
従来モデルでは汎用の端子はUSB 3.2対応のUSB Type-Cが1つだけで、他にはASUSの独自インターフェースROG XG Mobileが用意されていました。
ROG XG Mobileは対応機器を持っている人にはうれしい対応ですが、ユーザーはそれほど多いわけでもなく、それよりも他の端子があった方が利便性は上がります。
今回のモデルではUSB Type-C端子が2つになりました。1つはUSB3.2 対応、もう1つはUSB4対応です。
これで、例えば外部出力のためにディスプレイをつなぎながら給電するようなことが簡単にできるようになりました。
従来同じことをやるには、給電とディスプレイできる機器が必要でしたが、そのような必要も無くなります。
もちろん、他の周辺機器への接続も簡単になります。
機能向上での欠点は
内部構造含めて全体がかなり変わった結果、どこかに問題も出てきそうですが大きな問題はありません。
強いて言うとサイズが大きくなり、重量が重くなったことでしょうか。
旧 280.0mm×111.38mm×21.22~32.43mm 608g
新 280.6mm×111.3mm×24.7~36.9mm 678g
厚み方向が1割ほど増えて、重量も1割ほど増えました。
重くなったことで従来モデルのユーザーからは不満も出そうですが、このくらいの重量増でバッテリー駆動時間が倍増しているなら、がまんできる範囲ではと思います。
実際に持った感じでは確かに多少重くなりましたが、個人的には気になるレベルではありません。
実際の使い勝手
ポータブルゲーミングPCは画面の左右にコントローラーが配置され、PCゲームでの各キーの割り当てがそれぞれのボタンに対応するようになります。
これを設定するのが、内蔵のROG関連ソフトで、それ以外の各種設定もROGシリーズと同じようにここで可能です。
初めてこの手の機器を使う場合、どのゲームの何のキーがどこに割り当てられているかに慣れるまでが時間がかかると思います。
普段、キーボードとマウスで慣れていたゲームのキーが左右のボタンに割り当てられますが、個人的には慣れるまでかなり時間かかりました。
それさえ何とかなれば、いつでもどこでもゲームを遊べます。その時に気になるのが発熱や、廃熱のファンの音ですが、小型の筐体に詰め込まれたわりにこれらの問題はほとんど気にならないレベルです。
どのようなゲームをどんな設定でどのくらい遊ぶかによりますが、コントローラーで遊んでいて問題を感じることはありませんでした。
また、ゲームで遊んでいるとついつい力が入ってしまいますが、筐体の剛性面でも問題ありません。
ヘッドフォンを使わず本体内のスピーカーでゲームを遊んでもスピーカー品質に問題がなく、前述の廃熱のファンの音も大きくはないので、総合的なゲームを遊ぶ快適さという点で問題になることはありません。
一つ問題があるとすると、画面が7インチということで、27インチなどのディスプレイで、マウスを使った操作に比べて見にくい、細かな操作が難しいことくらいでしょうか。
このあたりはプラットフォームの違いなので、自分がどこまで妥協できるかでしょうか。
ポータブルゲーミングPCとしてROG Ally X(2024)は買いなのか
2024年8月のこの原稿執筆時点で、各種キャンペーンなどを除くと、旧モデルが約9万円から、新モデルは約14万円です。
この価格差をどう見るかですが、メモリ、ストレージ、バッテリなど主要機能が大幅強化されて、約5万円の差は厳しい物の、ゲーミングPCとみると14万円というのはかなりお買い得です。
旧モデルの9万円というのが安すぎるのですが、改良点は気にならない、そこまでPCゲームにはまっていないなら、安すぎる旧モデルで気軽にPCゲームを遊ぶというのもありでしょう。
14万円という価格は、デスクトップPC用のそこそこいいビデオカードくらいの価格です。
この価格でディスプレイなど含めたゲーミングPC一式がそろうならかなりお買い得と言えるでしょう。
コントローラー関係含めて、各種設定が出来る専用ソフトもしっかりしており、普段PCゲームをマウスとキーボードで遊んでいる人でも、多少慣れさえすれば左右のコントローラーで遊べるようになります。
常に机の上のゲーミングPCが遊べる環境にないが、気軽に本格的にPCゲームを遊びたいなら、新モデルのROG Ally Xは細かな点が改良されたお得な製品です。